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【第160回】「『空間』としての建築の違和感」


2017年7月11日の第160回建築家フォーラムは、大坪克亘氏とパートナーシップを組んで活動している増田信吾氏が登壇。2008年のSDレビュ―に入賞して注目を集めた「風がみえる小さな丘」を皮切りに、自作について語った。

 「物心ついた時はすべてが揃っていた」と話す1982年生まれの増田氏にとって、「豊かさは大事で、これを設計にどう汲み上げていくか」という視点が創作活動の1つの基盤になっているという。重視するのは、「直接的な空間性の探求というより、どのように空間を揺るがすかというその場所そのものだったり、環境と環境がぶつかり合う境界をいかに設計できるか」。空間性という概念から疑ってかかる姿勢が印象的だ。

 ARCASIA(アジア建築家評議会)が開催したフォーラム2015のデザインリサーチで、増田氏らは磐座(いわくら)信仰の事例を巡り歩いた。「時間軸に対して変化しない強さを持っている岩が例えば森の中に特別な場所を長い時間とともに生んで、そこを人が発見し集まり、やがて必要とともに社が添えられる」という概念と場を体験し、強いモノが生み出す場所性に感銘を受けた。

 山口県下関市の高台に計画した「風がみえる小さな丘」(2010年)は、並び立つ風車を見るための物見台の設計を依頼されたものだ。敷地環境と目的を踏まえて提案したのが、それ自体が揺れる塔だった。屋根を持たず、壁だけで構成した1980mm四方という平面形状の鉄骨造建築は、風が吹いたり壁に寄り掛かったりするとわずかに揺らぐ仕組みを有する。同じクライアントによる「たたずむ壁」(根室市)では、風が強く吹き付ける岸壁に面した敷地に曲面状の2枚の壁を配し、そこに育ち得ない小さな森をその2枚の壁の間に計画した。

戸建て住宅の「塀」を設計した「ウチミチニワマチ」では、エクスパンドメタルを「レースのカーテンのように」折り曲げて自立させ、10mの間口を覆った。風を通し、日中は外からの視線を遮断する素材によって、街と家との間の関係性を変える試みだ。「街を変えるなら、塀を変えるほうが早い。そういう意味で設計する価値がある」と増田氏はとらえる。

これらは、一般的な建築というくくりから逸脱した作品群といえる。一方で“建築”のプロジェクトも、増田氏ならではの切り口を感じさせるものとなっている。

例えば、2階建てのアパートをリノベーションした「躯体の窓」(2012年)では、南側のファサードに3階分の高さの窓を設置。周りを建物に囲まれた庭に反射光を取り込み、どこか人工的な明るさを備えた場に変質させようと試みた。木造の平屋建てを改修した「リビングプール」(2014年)では、既存の床を取り払ってフロアレベルを928mm下げ、既存の外周布基礎と新たな床コンクリートを断熱処理して蓄熱暖房として活用した。

 アート性の高い提案においても、その背後にディテールや構造の仕組みといった建築的要素を欠かさない。豊かさを前提として享受しつつ、空間性という概念を当たり前と思わずに疑うところから出発する。企画担当幹事・手塚貴晴氏の「ささやかな幸せを見つけるのが上手。これは私たちの世代にはできない」という評が、独自のバランス感覚を備えた増田氏の設計姿勢を端的に表現していた。

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