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【第183回(2019/11/19)】「Hidden Materials & Joints , Structural Systemの構造デザイン」

 

建築家フォーラム第183回の幹事を務める今川憲英氏は、世界的な外科医的構造建築家だ。今回は、子息である今川聖英氏(株式会社ISGW代表取締役)をゲストに迎え、両氏がこれまで取り組んできたプロジェクトの根底に流れる「Hidden Materials & Joints , Structural System の構造デザイン」をテーマに講演が行われた。

構造設計を突き詰めていくことで、建物の内外の空間から柱や梁、接合部などが「異物」として表に見えなくなる、という現象が発生することがある。幹事の今川氏は、これを「Hidden Structural Design」と呼び、「構造が姿を消すことで、空間デザインの可能性が増大する反面、我国伝統の柱、梁の骨格を中心にデザインを展開しているデザイナーにとっては、基本計画の拠り所であった、水平、垂直 そして空間のリズムを失うことになるのではないか」と指摘する。そして「そのうえで、建築家、デザイナー、アーティストは空間の骨格の新しいアプローチに挑戦することになる」と予言する。

講演では、Hidden Structural Designの例として、アントニオ・ガウディのカーサ・ミラやコロニア・グエル教会の地下の構造について触れ、「ガウディは空間にフィットし、空間を妨げない架構を実現している」「石、レンガ、タイル、鉄、木材など多様な素材をハイブリッドして構造を組んでいる」と説明。

ガウディのバルセロナにおける建築では、ローカルな建材であるカタロニアレンガ、カタロニアタイルを縦横無尽に活用し、素材を生かした設計が実践されている。どういう素材がどういう空間をつくるのに適しているのか。ガウディは適切に判断し、適材適所の設計を行ってきた。「まさに近代建築の原点だ」。今川氏はこのように評する。

現在、今川氏が取り組んでいる新建材「CO2エコストラクチャー」は、二酸化ケイ素にCO2を吸着させて瞬時に固めるという、コンクリートの長所を生かしつつ、短所を補う新素材だ。鉄筋を必要とせずに鉄筋コンクリートと同等の強度を発揮する。

講演の後半は、今川聖英氏が父・憲英氏と開発に取り組んでいる耐震工法ISGW(Interior Shear Grid Wall)の施工事例を紹介。鎌倉文華館鶴岡ミュージアム(旧神奈川県立近代美術館)などでどのように補強に活用されているか、説明された。

また、堺市民芸術文化ホールでは、鉄筋コンクリート厚肉床壁構造(通称TWFS)を採用。

柱と壁・梁と床が同じ厚さで構成され、柱・梁の凹凸が無い空間が実現できた。いわば柱と梁が「隠された」構造となっている例として解説された。

ISGWは、耐震耐力が不足した鉄筋コンクリート造の建物をガラスと鋼製格子のハイブリッド技術で補強する構造とデザインが一体となった工法だ。通気性・透光性が高いため、耐力壁を増やしても閉塞感に悩まされることがなく、見た目の意匠性も損なわれにくい。接着工法による低騒音、小粉塵施工が可能。様々なユニットの組み合わせができ、出入り口も設置できる。

鎌倉文華館鶴岡ミュージアムなどの例ではこうした特長を生かしながら、空間の意匠性を損なうことなく、建物の構造が支えられることとなった。ISGWはまさに「Hidden Structural Design」として機能しているわけだ。現在、オフィスビルやレストラン、幼稚園や学校施設などにも採用されているという。

「構造設計というものは、完全にはわかっていない素材を利用して、自然の荷重に対して検討するもの」「ガウディも”自然の中にデザインの方向性がある”と言っている」。幹事の今川氏はこのように定義づける。素材のさらなる追求、架構の技術の向上にはまだまだ余地がありそうだ。聖英氏ともども、CO2エコストラクチャーやISGWの開発と普及促進にこれからも注力していく姿勢がうかがえた。

 

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