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【第173回(2018/11/27)】「-Non-Verbal(非言語)構造デザインの紹介-」

2018年11月27日の第173回建築家フォーラムでは、幹事を務める今川憲英氏が登壇した。題して「-Non-Verbal(非言語)構造デザインの紹介-」。木空間の構造に関するテーマは今川氏が話題提供した第161回と第169回に引き続く内容で、3部作の完結版ともいえる。出席者には、同時期に井上書院から出版した自著「素材は語る1 木と空間」を配布。できたての本を手に、内容を概説した。

今川氏が意図するのは、難しい概念や計算式を使わずに、感覚的に構造の考え方の肝を理解してもらうことだ。例えばガリレオ・ガリレイはニュートンやライプニッツよりひと世代早く生きたため、力学や運動学の基盤となる微分積分を知らなかったという。しかし、日常的な「てこ」や「天秤」の原理を用いて「片持ち梁の力と反力の関係などを解明していた」と今川氏。同じように現代の私たちも、構造力学の公式だけにとらわれず、物理を成り立たせている本質を捉えてほしいと諭す。

書籍では22の木構造の事例を取り上げている。各事例には今川氏による2種類のオリジナル図表を添付して、構造上の特性や素材の使い方の効率を比較できるようにした。

図の1つ目は「素材と空間の骨格デザイン認識図」。空間構造の特性を「OPEN/CLOSE」「SLENDER/MASSIVE」という2軸で分類し、構造空間との特性を同時に認識するダイアグラムを示す。

もう1つは今川氏が「ヘキサゴンダイアグラム」と呼ぶレーダーチャートだ。使用した構造部材の量、建築の面積やスパン寸法などを算出し、仕事量(ジュール)当たりの建築面積や空間体積といった「素材と空間の骨格エネルギー」と「CO2放出効率」を示す。規模にかかわらず建築物のエネルギー効率を比較できるようにしたうえ、各図には目安としてクリスタルパレスと銀閣寺の数値も提示した。

クリスタルパレスと銀閣寺のCO2放出効率はほぼ同じで、効率が高いという。1851年ロンドン万博の会場としてつくられたクリスタルパレスは、ガラスと鉄の建築と思われがちだが、アーチとサスペンションに木を使用していた。銀閣寺の数値は、2007年から2010年まで実施した大規模修復工事の調査時に取得した図面データを元に算出している。

22の事例で採用した構造方式は、苓北町民ホール(阿部仁史+小野田泰明+阿部仁史アトリエ、2002年)のHPシェルから、新宮健康増進センター(古橋建築事務所、1993年)のサスペンションアーチ、よしの保育園(手塚建築研究所、2015年)の三方向方杖構造などまで幅広い。今川氏は書籍で紹介したほとんどの事例について駆け足で説明していった。

「丁寧に構造をひも解いていけば、法規の範囲で多様な木建築を実現できる。木造に対する間口が狭まらないようにしていきたい」という今川氏の言葉どおり、木という素材の可能性を示唆する内容だった。

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