【第138回】「まち、人、建築を巡る対談 大西麻貴×古谷誠章」
第138回建築家フォーラム(2015年3月17日)は、大西麻貴氏と建築家フォーラム代表幹事の古谷誠章氏による対談形式で行われた。大西麻貴+百田有希/o+hを共同主宰する大西氏は、図書館と集合住宅の複合建築を提案した卒業計画で学生時代から名を馳せた若手建築家だ。
中学時代に訪れたサグラダ・ファミリアとの出会いが建築家としての原点になったという思い出に始まり、大西氏が携わった6つの作品へと話は展開していく。
まず大西氏が触れたのは、2014年の事業者選定で次点になった「東根市公益文化施設整備事業」だ。図書館と美術館を併せ持つ施設の提案に際し、PFIチームの一員として古谷氏(ナスカ)に協力。ヒトデ形のような動線を備えたプランによって「歩いていると自然に(各施設の)中へ入っていく空間構成」を提示した。
2011年に完成した「二重螺旋の家」は、大西氏と百田氏にとって初めての実作だった。東京・谷中の魅力的なまち並みの中の端竿敷地という立地を生かし、路地がそのまま巻き上がっていくように、廊下がホワイトキューブのまわりをらせん状に取り巻く空間を実現した。廊下は、場所に応じて図書コーナーやギャラリースペースなどになる。
2013年8月末から9月にかけては、「小豆島Creator In Residense『ei』」の第7期レジデントとして滞在制作に取り組んだ。「観光から関係へ」をテーマに、香川県小豆島の地域振興を目指すアート・デザインのプログラムだ。11日の滞在期間で大西氏は、「10年後の坂手を考える」と題し、地域の人たちとお薦めルートマップを作成したり、空き地を利用した夕暮れ音楽会を開いたりした。ここで得た縁から、現在は、島内外の人の交流拠点になっている町営ホテル跡の再生計画等を進めている。
そのほか、東京都渋谷区で進む「渋谷駅桜丘口地区再開発計画」デザイン・アートワークのコンペで優秀賞となった作品では、風船状の庇をもつデッキを提案した。2013年1月に完成した仮設住宅の集会所「東松島 こどものみんなの家」(宮城県東松島市)は、伊東豊雄建築設計事務所との共同設計。三角屋根やドームなどそれぞれ異なる形をもった3つの家をつくり、こどもたちの居場所を提供した。同じく2013年に完成した「さとうみステーション」(宮城県気仙沼市)は、かまぼこ形に折り曲げた鉄板を連結したガソリンスタンドだ。滋賀県立大学の陶器浩一教授と共同設計した。
取り組みを通して感じられるのは、そこにいる人々や既存の街の潜在力を引き出し、結び合わせて、新しい価値を生み出していく構成力だ。実現への過程では、親しみを感じさせる大西氏のスケッチが「関係者の問題意識や目標を共有させ、プロジェクトを推進させる力になっている」と古谷氏は評する。
大西氏と百田氏は2014年、それまで目黒区のビルに構えていた事務所を日本橋浜町(東京都中央区)の路面に移転した。「サッシがなく、八百屋さん状態」でオープンに街と接した事務所は、冬にはビニールカーテンで寒さをしのぐという。周囲のまちとの関係を変え、まちの人たちと密に接することで「新しいアイディアが前のアイディアを破壊して生まれてくるという創造的な状態」と目指すという。
若い世代の建築家らしいしなやかさを身上とする大西氏が口にした「破壊」という言葉。聴講者に両者のギャップを印象づけて、フォーラムは終了した。