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【第137回】「この10年間でつくってきた建築について」

2015年最初の建築家フォーラム(第137回、2015年1月27日)のスピーカーは長谷川豪氏。事務所を開設して、今春でちょうど10年の節目を迎えたという。講演では、未発表及び進行中を含む8作品を取り上げた。

作品を解き明かすキーワードとして、長谷川氏は自ら、2つの“場所”、“LOCAL”と“LOCUS”を掲げる。前者は実在する特定の“場所”を指すのに対し、後者は遺伝学において染色体内の遺伝子の位置を指す学術用語。ここでは、床や窓、バルコニーといった建築のエレメントが、建築全体にどう作用するか、という意味だろうか。

最初に取り上げた北軽井沢に建つ別荘「森のピロティ」は、極端な高床の建物だ。ピロティの高さは6.5mに及ぶ。そこは、外でもなく中でもない、建築でもあり自然でもある、独特の空間になっている。 「浅草の町家」では、3階建てほどの高さの戸建て住宅を4階建てに。床に大きな穴を空けて容積率を抑えた。各階の天井高は約1.9m。結果、同一階より上下階のほうが近いという、距離感の逆転が起きている。

同様に、「御徒町のアパートメント」は、8階建ての高さの建物を10階建てとした。各階は互いに壁を接しない2住戸で構成され、おのおの異なる平面を持つ。すべてのフロアが水平・垂直方向に外部とつながる“隙間”を持ち、吹き抜けを介して2階の住戸からも空が見える。

対して「練馬のアパートメント」の特徴はバルコニーにある。居室をL字に囲んだり、中庭にしたり、縁側のように使えたり、と住戸ごとに個性を持たせた。

さらに、「三軒茶屋の住宅」では、室内とバルコニーの比率を逆転した。奥行きわずか1mの建物に対し、2.5mものバルコニーが張り出しているように見える構成だ。

「上尾の長屋」の窓は、すべて2m角の両開きサッシ。シンプルな外観に反して、内部はユニークな断面を持つ。サッシの配置から室内が推測できてしまう、ステレオタイプの郊外型住宅に対するアンチテーゼだ。

東日本大震災発生直後に「ギャラリー間」からオファーされた個展では、被災地の幼稚園への寄贈を前提に「石巻の鐘楼」を計画した。六本木のビルの中庭に展示したあと、東北の幼稚園の庭に移設。2つの“LOCAL”を同時に念頭に置いて設計している。

長谷川氏の“LOCUS”とは、時間軸も含めての“場所”だろう。氏は3月上梓の著書「カンバセーションズ」において、ヨーロッパ各国、各世代の建築家6組と語り合い、それぞれの歴史へのまなざしに感銘を受けたと語る。地理的にも時間的にも視野を広げ、次はどのような“場所”に踏み出すのかに注目したい。

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