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(社)宮城事協・青年部会リレートーク 21世紀の事務所像探る

宮城事協・青年部会

リレートーク

建築界とりまく問題議論
21世紀の事務所像探る

写真左:近江氏 写真右:藤本氏

近江氏 「職能の尊厳」高く
藤本氏 他領域取込む必要

宮城県建築士事務所協会青年部会(鈴木弘二会長)は20日、仙台市青葉区のエルパーク仙台で、近江栄日大名誉教授と建築家の藤本昌也氏(現代計画研究所主宰)の二人を講師に招いて第7回リレーレクチャーを開いた。

協会本部との共催による特別企画として開かれた今回は、「21世紀における設計事務所のあり方」をテーマに、設計者選定をめぐる問題や国際化の進展に伴う建築家資格制度への対応など建築界を取り巻くさまざまな問題点を考察しながら、今後、設計事務所が生き残っていくためのあるべき姿を論じ合った。

このなかで近江氏は、混迷する昨今の設計者選定の実情を憤りを込めて指弾。
とくにコンペやプロポーザルでの選考プロセスが「ブラックボックス化」し「情報公開されないまま」に終始していることに対して、わが国建築界が沈黙している状況を「建築家自体の意識が低く、職能の尊厳の価値をどう考えているのか、歯痒いほど」と厳しく指摘し、「本当に職能の確立を願うなら、連帯意識の中で何らかのアクションを起こす必要がある。団体間で連携し、本来あってはならない行為に怒り、目を光らせていくべきだ。」と訴えた。

また、自治体の設計者選定の80%近くが依然設計入札となっている現実を直視したうえで「この状況を少しでも変えていくにはどうしたらいいのか。建築文化の質的向上に意欲的に取り組んでいる人達を参加させるやり方、例えば地域の建築賞や景観賞などの受賞暦があるといった参加資格を設定したうえでロアーリミットを設けるという方法はどうか」と提案した。

一方、日本建築士会連合会の資格制度委員会を務める藤本氏は、建築5団体で進められている建築家資格化制度の検討状況などを説明しながら「建築士の利益だけではなく、日本の社会や市民のために建築士はどうあるべきか、それを支える建築士制度はどうあるべきを考えることかが重要だ」と資格制度に対する基本的スタンスを披露。そのうえで「情報化や環境問題などあらゆる技術を包括しなければならない社会にあって、エンジニアとアーキテクトが共存する一つの技術集団として資格制度を捉えていくべきだ」とし、「一定の素養を持った建築士がそれぞれ専門分野に分かれていくという建築士像を追求している」と士会連合会が提案している『専攻建築士制度』の概念を紹介した。

さらに「建設業界は規制産業の最たるものであり、どうしても法律に頼ってしまうが、反面、公的権威に委ねることでその介入を許すことにもなる」とし、「法律によらない社会的な制度を職能側がもっと工夫してつくるべきだ」と主体的な活動による新たな枠組みづくりの必要性を強調した。

また対談では、国土交通省が本格実施した設計と工事監理の分離発注について議論。近江氏は「一つの作品をつくるというのが建築家のスタンスであり、設計者の意思や情念といった思いが断ち切られることで建築の質、設計の質を悪くするのではないか」と指摘。

藤本氏も「専門分化の問題につながることだが、設計と監理は一体的な考え方に基づいて行われることが大事であり、建築文化論として分断されることは望ましくない」との考えを示した。

さらに21世紀の設計事務所のあるべき姿について言及。近江氏は「21世紀に設計事務所が成り立つかということでは楽観できる状況ではない」とし「プロジェクトが極端に減るとしても好きだから食えなくてもやっているという姿勢が建築家としての生き様たらざるを得ないのではないか」としながらも「自らの職能の尊厳を社会的に訴えることなく、手をこまぬいているだけでは光明は見出せない」と厳しい現状の打開に向けた積極的な行動の必要性を重ねて力説。

藤本氏は「設計監理業務は減少するが、それにまつわる周辺業務は確実に増える」とし、その対象としてまちづくりに関する業務とCM(コンストラクション・マネジメント)の二つを提示。そのうえで「まちづくりに関する業務は現在土木への予算が圧倒的だが市民の意見を聞くセンスを持った建築家のほうが適している部分が多分にある」とし、「さまざまな専門分野の技術者を巻き込んで全体を統括する職能をもう一度取り戻すべき。領域は確実に広がっており、多様な設計事務所のあり方が必要とされてくる。

アグレッシブに他の領域を自分たちの領域に取り組む努力が必要」だとし、新たな分野への積極的な参入を促した。

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