【第161回】「素材は語る 〜外科医的建築家 憲Imagawa、新しい木のデザインを語る。〜」
聞き手は、建築フォーラム幹事で東京電機大学名誉教授の今川憲英氏。講演者は、「外科医的建築家」の憲Imagawa氏。第161回建築家フォーラム(2017年9月19日)は、今川氏いわく「自作自演」の講演となった。テーマは、これからの新しい木造の可能性だ。
Imagawa氏は、これまで50に及ぶ国々の建築を調べ、あるいは設計に参画してきたという。豊富な見学事例から、英国のクリスタルパレスの事例を手始めに、ボストン公共図書館のアビールーム、京都の銀閣寺や山口県岩国の錦帯橋など、木を用いた多様な建築の事例を矢継ぎ早に解説していく。ちなみにクリスタルパレスは鉄とガラスの建築というイメージだが、ガラスと鉄の接合部に設けたトイ部分に木を用いていたという。
多くの経験を通し、「建築に使う素材自身が『このような形にしてくれ』としゃべっているのではないかと気付いた」。そう話すImagawa氏は、空間構造の合理性を考えるための2つの視点を提示した。
1つは、「スレンダー/マッシブ」「オープン/クローズ」という2つの軸で空間構造を分類する考え方だ。例えばフラットスラブは「マッシブかつオープン」の象限に、シェルドームは「スレンダーかつクローズ」の象限にそれぞれ該当する。こうして図にマッピングすれば、素材に合った空間構造のあり方が明確になると示唆する。
もう1つImagawa氏が強調したのは、二酸化炭素の排出量低減を念頭に置いた素材の使い方だ。構造材として用いる素材のボリュームとこれが支える空間の規模を比較し、単位素材当たりの仕事量を試算していくと、どの素材が効率的であるかが分かる。「現在、多くの素材は過剰に使われ、『このように使われたくない』と悲鳴を挙げている。素材の仕事量を数値化すれば、適切な素材の選択方法をエネルギー理論によって説明できる」とImagawa氏は話す。
こうした視点を踏まえて最後に、近年手掛けた木造の取り組みを多数紹介していった。
例えば「今井篤記念体育館」(設計:坂茂建築設計、2002年)では、木質系材料面材によるドームと五角形のスチールラチスを組み合わせた。「しずおか国際園芸博」(設計:栗生総合計画事務所、2003年)では、はしご状に組んだCLTのフレームに異形鉄筋の張力ロッドを入れ込んで大空間を実現した。「あさひ幼稚園」の仮園舎(設計:手塚建築研究所、2012年)では、東日本大震災の津波で立ち枯れしたスギを用い、金物なしで空間を構築した。「彫刻の森美術館・ネットの森」(設計:手塚貴晴+手塚由比/手塚建築研究所、2017年)では、木造組積方式を採用した。
規模も構造形式も多彩な木造の実例を通して、構造材としての木が備える可能性や、その使い方に対して改めて思いをはせる。そんな講演となった。