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【第184回(2019/12/17)】「メディアテークから25年、図書館はどこまで来たか、これから先どこまでいくのか」

建築家と住民が一緒に公共施設を考える時代

図書館といえば、建築に関わる人なら誰しも「せんだいメディアテーク」を思い浮かべるのではないだろうか。その時代から、図書館はどのような進化を遂げたのか。ICTを含む様々な技術の発展に伴い、図書館は多様な姿を見せ始めた。他の機能との複合化を試みた新築、リノベーションなども見られる。

そうした中、2019年11月に、高知県須崎市の新たな市立図書館の設計者選定プロポーザルで、畝森泰行氏(畝森泰行建築設計事務所代表)と金野千恵氏(teco代表)の共同体が選ばれた。これは基本設計ではなく、基本構想の時点から市や市民とともに共に図書館を考え実現していく、建築家というよりもパートナーとしての役割が求められている。建築家にとっては、稀有な公共建築プロジェクトといえる。

これまで、公共施設の建設プロジェクトでは、建築家は基本構想の完成した後、基本設計から参画するケースが大半だった。そのため、基本構想に対し矛盾を抱えながら作業を進めることもあっただろう。当フォーラム代表幹事の古谷誠章はこのように語る。「昨今は建築家が基本構想から関わるケースが増えた。それにより、基本構想段階のワークショップなどを通じ、建築家が市民とコンセンサスを図りながらプロジェクトを進められる可能性が高まった」。

住民のコミュニケーションを促す、図書機能

須崎市立図書館は単なる図書館ではなく、まちや住民とのつながりを重視した施設を目指している。登壇した両名はすでに、市民同士のコミュニケーションを促す施設や場の新たな姿を追求し実際につくり上げる経験をしてきた。プロポーザルにはそうした経験が生かされたのだろう。

畝森氏の手掛けた図書館機能を持つ公共施設に、「須賀川市民交流センターtette」がある。同市は東日本大震災によって甚大な被害を受けた。その中心地に図書館をはじめ生涯学習、子育て支援、ミュージアムなどの複数の機能をもつ場を新たにつくり、市民が集い、新たな交流が生じる場を目指すというプロジェクトだ。

建物の床を少しずつずらして積み重ね、外部に向かって多数のテラスを生み、センターでの人々の活動が街に表出することを狙った。一方、内部には吹抜けを設け、機能の異なる各階を視覚的に融合した。建物全体は街そのものをイメージし、大きなワンルームとした。「緩やかな階段やスロープで各階を繋いで、街を歩くように自由に建物を回遊できます。この頃はお年寄りがウォーキングしている姿も見かけるようになりました」(畝森氏)

(C)Kawasumi・Kobayashi Kenji Photograph Office

館内は前述のすべての機能をもちつつも、各エリアを「まなぶ」「つくる」「あそぶ」などの9つのテーマに分類してゾーニングしている。イメージしやすく“大きな”テーマとすることで、幅広い市民がそれぞれのゾーンに集うよう促した。新たな知識や情報を見つけ、人と人との交流が生まれるよう試みたものだ。図書スペースは一カ所にまとめず、それぞれのテーマの付近に配置。施設全体が公民館でも図書館でもあるような、新たなスタイルの公共空間となっている。

(C)Kawasumi・Kobayashi Kenji Photograph Office

一方、金野氏は昨今、福祉系施設のプロジェクトを多く手掛けている。それはいずれも、単一の機能を持つのではなく、主たる利用者である障がい者や高齢者、子供のみならず周辺住民との交流をもたらす仕掛けを求められているという。やはり本を、交流促進を後押ししてくれるツールのひとつとして捉えている。

江別市の商店街の築30年の一店舗を、障がい者就労施設としてリノベーションしたプロジェクト、「わたなべストア」もそのひとつ。経営は社会福祉法人が担う。施設は道路と道路の間に建つ元長屋で、1階の中ほどに通り土間を設け、これに沿って障がい者や市民が集う“まちキッチン”やアトリエ、公共トイレを併設した。デイサービスセンターは2階にある。通り土間は誰でも自由に行き来でき、キッチンなどに集った人々と交流が生まれる可能性を秘める。また、通り土間の壁沿いには自由に座れるベンチと、自由に読める本やアート作品、販売する野菜を置くための“棚”を設けた。ベンチでは、しばしば家主であるおじいさんが座りのんびりくつろいでいる。

「イベントなどを行わなくても、本や作品があると場所に立ち寄る言い訳になりますね。まちと繋がりながら生きていく媒介になります」(金野氏)

(C)teco

(C)teco

(C)teco

(構成・文/介川 亜紀)

 

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