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【第169回(2018/6/19)】「Non-verbal(非言語)で伝える【素材と骨格のデザイン】:木が語る 木造編」

テーマは、木の構造とデザイン。2018年6月19日の第169回建築家フォーラムは、幹事の今川憲英氏(東京電機大学名誉教授)が語り手となった。

今川氏はこれまで構造設計を手掛けてきた多数の建築を、素材と構造の特徴から分類する書籍「素材は語る」シリーズ(井上書店)を執筆している。第1弾となる「木と空間」編は22の具体事例を取り上げ、18年11月に出版される。建築家フォーラムは、その内容を数カ月先取りして紹介する内容となった。

素材は語る」シリーズでは今後、スチール、RC、ナイロンなどその他の素材を取り上げる予定という。そのなかでも木は、「個性的で、考えようによっては長寿命になることに気付いた」と今川氏が語る素材だ。

 本論に入る前に、今川氏は古今東西の木の構造物を挙げてそれぞれの特徴に触れていく。例えば国内の有名な3つの木造橋。片持ち梁を繰り出して支えている山梨県大月市の猿橋は、耐久性を高めるために各梁に屋根を付けている。山口県岩国市の錦帯橋は、直線材のみでアーチ構造を実現している。静岡県島田市の蓬莱橋は、897mもの長さの橋を一直線に渡したものだ。今川氏はこれらの例を踏まえて「メカニズムが単純であるほど構造物の寿命は長い」と指摘する。

次いで、今回のテーマである22の事例紹介に移った。そこでは、加工のしやすさという長所を生かし、独創的なアイデアも盛り込みながら、意匠設計者の目指す空間を実現する合理的な構法を工夫してきた。その結果、木造とひとくくりでは語り切れない多様な建築空間を生み出している。

大原山七福天本堂(千葉県、意匠設計:川口英俊+アーキテクトキューブ)では、崖からせり出した建物を支えるためにV字形の柱を用いた。五条坂の住宅(京都府、キアラ建築研究機関)では、方杖と筋かいを斜めに交差させ、その交点に菱形のジョイントを用いた。南三陸あさひ幼稚園(宮城県、手塚建築研究所)は貫構造とし、その増築時にはラーメン構造をベースに方杖とはさみ梁を用いた構法を採用した。

集成材を使ったり、スチールと組み合わせたハイブリッド構造を取り入れたりという事例も多様だ。水前寺江津湖公園管理棟(熊本県、ウシダ・フィンドレイ・パートナーシップ)では、集成材の柱・梁の上に木製格子シェルの屋根をふわりと載せた。引本小学校屋内運動場(三重県、加藤宏之建築設計室)では、中径木の間伐材と異形鉄筋の下弦材を組み合わせたハイブリッドテンショントラスで切妻屋根を支えた。これらのほかにも、木の組積造やフラットスラブ構造、トラスアーチなどさまざまな構造事例が登場した。

「どういう空間をつくってほしいのか、素材自身が語ってくれる。それを汲み取りながら適切な構造を考えていくことが重要だ」と今川氏は訴える。構造とは、単純に計算によって力学をひもとく作業ではなく、造形デザインに対する理解とこれを踏まえた発想が欠かせない。細かい計算式を使わずに、基本的な力の考え方を分類したダイヤグラムによって各構造の特徴を伝える解説には、今川氏のそうした意図が込められている。

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