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【第156回】「12組13人の建築家+12のソリューションズ」

 建築家フォーラムが1つの節目を迎える。

 2001年1月の建築家フォーラム創設※以来、LIXIL(当時はINAX)が担ってきた事務局が交代し、2017年度からは大光電機が担当する。これに伴い、2016年12月20日の第156回建築家フォーラムは、16年間に及ぶ1つの時代を締めくくる場となった。普段は進行役を務める代表幹事の古谷誠章氏が自ら話し手になり、LIXILの情報誌「INAX REPORT」(→http://inaxreport.info/backnumber2.htmlにリンク)と「LIXIL eye」(→http://archiscape.lixil.co.jp/lixil_eye/にリンク)で氏が手掛けてきた対談・鼎談を振り返った。

 2誌の連載企画を通して、古谷氏は戦後から現代への流れを象徴する建築や建築家を取り上げてきた。

INAX REPORT/ 179〜190
LIXIL eye/ 1〜12
十二組十三人の建築家 古谷誠章対談集(LIXIL出版)

 INAX REPORTの連載「続々モダニズムの軌跡」(2009年7月〜2012年4月)では、20世紀に完成した建築に焦点を当てつつ12組13人の建築家と語り合った。順に、伊東豊雄、伊丹潤、柳澤孝彦、長谷川逸子、谷口吉生、山本理顕、象設計集団(樋口裕康、富田玲子)、坂本一成、鈴木荀、石山修武、東孝光、安藤忠雄の各氏だ。

 LIXIL eyeの連載「建築ソリューション」(2012年11月〜2016年10月)では、戦後のエポックメーキングな建築を取り上げて当時の関係者たちと鼎談した。テーマに挙げた建築/建築家は、東京タワー/内藤多仲、香川県庁舎/丹下健三、都城市民会館/菊竹清訓、新宿駅西口広場・地下駐車場/坂倉準三、秩父セメント第二工場/谷口吉郎、名古屋大学豊田講堂/槇文彦、大多喜町役場/今井兼次、国際文化会館/前川國男、霞が関ビルディング/池田武邦、五島美術館/吉田五十八、八幡浜市立日土小学校/松村正恒、私たちの家/林昌二・雅子になる。

 古谷氏は、掲載順に1つずつ対談・鼎談の思い出を掘り起こしていった。時代背景や建築家の人柄、対談時のエピソードを織り交ぜた話は、出来上がった建築自体が備える意味合いに加え、設計行為を取り巻く環境やそれに対する建築家の向き合い方について改めて考えさせるものとなった。

 例えば、施主に対するプレゼンテーションの在り方だ。美術の収蔵庫を依頼された谷口吉生氏は、美術品のように見られる存在として資生堂アートハウスを設計した。安藤忠雄氏は、六甲山の山裾に建売住宅を設計してほしいという依頼を断ったうえで、裏手の敷地に集合住宅を建てる提案を施主にぶつけて実現させた。いずれも、「与えられたプログラムに単純に従うことなく、頼まれもしない提案へと拡張」(古谷氏)させた例と言える。

 また山本理顕氏は、くまもとアートポリスの事業として手掛けた熊本県営保田窪第1団地で、完成後に地元などからバッシングを受ける状況に陥った。その際、山本氏は「逃げも隠れもせず、必要なことには対応するが不要な批判には屈せず」(古谷氏)に論陣を張り、地元の理解を得ていく。

 これまで以上に施主やユーザーの声に耳を傾けて“寄り添う”ことが求められる今日にあって、彼らが見せた専門家としての振る舞いは示唆に富む。

 「12のソリューション」では、建築の継承という視点もあちこちにちりばめられていた。話のなかで改修・再生の話題に直接触れたのは、名古屋大学豊田講堂、大多喜町役場、私たちの家の3つ。このうち私たちの家は、建築家夫婦が自邸を建て、時代と共に増改築を行い、その後フォーラム幹事でもある安田幸一氏が引き継いで一部の原状回復や改修を施した事例だ。安田氏による改修について、「(原設計は)技術革新、高度成長、民主主義という時代背景に日本の精神を織り込んで都市の住まいを目指した。その底に流れていた『真の豊かさ』を求める姿勢が引き継がれたところに価値がある」と古谷氏は位置付ける。

 技術、経済、社会が大きく変動している現在だからこそ建築家が求めていくべき価値は何か。新・建築家フォーラムにそんな問いかけの余韻を残して、会は締めくくられた。

※建築家フォーラムの前身「建築家倶楽部」では、1991年4月から2000年12月にかけて230回の講演等を実施した 。

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