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【第148回】「建築家・横河健はいま何を考えているのか」

2016年3月22日の第148回建築家フォーラムに登場したのは横河健氏だ。

企画・進行を担当した幹事の国広ジョージ氏は、横河氏を「社会的発言のラウドボイスな面と、建てる建築の静かな深さが対照的」と紹介した。これに対して横河氏が、「僕にとって両者は同じこと。何のために建築をつくるかという考えの根幹には、この国が良くなってほしいという気持ちがある。敷地のコンテクストを読み取りプログラムを生成することで、そこに機能する建築が生まれる。その『あるべき道』に近づきたいと思ってきた」と答え、講演は始まった。

横河氏は住宅を中心に、ここ10年ほどの間で手がけた設計作を解説した。 近作の「庭球倶楽部」は、テニスコートのすぐ横に建ち、階高5mという大空間を備えた2階建ての別荘だ。もともとは、子どもが友人を集めてテニス合宿できる空間づくりを求められたが、横河氏はさらに「夫婦のこれからの楽しみ方を考えたストーリー」を描いた。子どもが寝泊まりできる1階まわりは、将来、夫婦がここだけでも生活を完結できるようにした。テニスコートの観覧席を兼ねた階段や、多面体状に張り出した2階のバルコニーなどが外観を特徴付ける。

このほかの住宅の多くでも、「多面体」が1つのキーワードになったシリーズが有る。 「Fuji View House」(2007年)では、鋼管の棟と小断面の木造ジョイスト梁を組み合わせて緩やかなむくりを持つ屋根を載せた。海の近くに建つ「多面体の屋根・館山(桜井別邸)」(2009年)では、コンクリートの壁柱で持ち上げられた2階部分の住居に、立体トラスの鉄骨造屋根を架けた。

異なる構法を用いたこれらの設計体験を通して、横河氏は空間を覆う屋根が持つ力を再確認したという。その後も、RC造・鉄骨造・木造の混構造を実現した「多面体の屋根・岐阜ひるがの(杉浦別邸)」(2010年)や、木造立体トラスの屋根を背景の山や森に呼応させた「那須塩原の牛小屋(早坂邸)」(2012年)など、多面体の可能性を追求していった。

比較的規模の大きな事例の数々が登場するなか、横河氏が最後に紹介したのは12坪の土地に計画中の「都市型竪穴住居」だ。規模の大小にかかわらず、「そこにある課題をどう解いていくのか。『世に問う』という姿勢は変わらない」と横河氏は話す。こうした一連の作品紹介の後、司会の国広氏は再び、社会に対して物申す横河氏の姿勢へと話題を転じた。

例えば、記憶に新しい新国立競技場への発言に関して、「違う意見があるのは当たり前で、必要なのは議論する場。それなしに後戻りするのはおかしい」と横河氏は説く。また建設業界は様々な旧弊を指摘されて久しいが、「フェアな民主主義のシステムが日本の風土に合っていないのなら、むしろ日本独自のシステムを堂々と構築すればよいという考え方もある」と示唆する。横河氏は、設計報酬についても「そこに基準があるのだから」と旧建設省告示1206号に則って設定しているという。自身の振る舞いも含め、筋を通す考え方が印象に残った。

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