21世紀への遺言 増補改訂版
21世紀への遺言 増補改訂版
東日本建築ジャーナル(2003-7)
日本大学名誉教授 近江 栄
高邁なことを語ったつもりはもちろんなかったが、「建築ジャーナル」のフトコロの深さに甘え「建築放談」を11回にわたって連載する機会を頂戴した(1996年10月号~1996年2月号)。そして「建設通信新聞」に序章「悩める建築界へ」(2000年5月18日)を、建築ジャーナルに「情報公開を求めて建築家が行動するとき」(2001年11月号) を私の『遺言』として公開している。
『遺言』は、「建築放談」の延長線上にあり21世紀の建築界への不安と危惧に対する提言をこめたものである。2003年を半ば過ぎたいま、この不安と危惧はいっこうに改善の兆しがないどころか、ますますもって混迷を極めるばかりであり「日暮れて道なお遠し」の思いを抱かずにはいられない。
迷走するコンペやプロポーザルについては、これまでも声高に発言してきた。相変わらずの状況なのに加えて、最近では新たにもうひとつやっかいな問題も生じつつある。JIAの推奨するQBSである。候補者を何者かに絞り、彼らの事務所と作品を審査員らが訪問して参考にするという手法であるが、これではあまりにも費用がかかりすぎる。とても地方自治体では受け入れられるはずもないし通用しないことは予見されていた。横須賀市では、JIAと協議して比較的小規模な物件を対象に簡便方式も実施されたが、「一人審査員の特命のごとし」でこちらも問題がある。いずれにしてもQBSはよほど工夫しないと、コンペやプロポーザルと同様の「不透明さの悲哀」を味わうことになる。どういうふうに選ばれたか、そしてどうして選ばれなかったのかをなぜきちんと公開しないのか。
建築界のこうした惨状の中で、唯一の光明といえるのは建築家資格の問題であろう。JIAの大宇根弘司会長と日本建築士会連合会の宮本忠長会長・藤本昌也制度委員会委員長が連携したのは大きな前進であると高く評価したい。これまで先送りしてばかりの問題を進展させた両会長の勇気ある行動に拍手を贈りたい。これで誇りも倫理も見出せないバーチャルアーキテクトから脱皮し、グローカルスタンダードに合致する実像としての建築家像を築く灯りは見えた。資格問題はこれがラストチャンスであり、挫折することなくその成果に大いに期待し支援したい。
衆寡敵せず。声高に当然のことを主張してきたつもりだが、なかなか賛同してくれる仲間がいないのが残念でならない。大高正人氏らの協力で設計報酬を定めた告示1206号や設計入札の問題のように、いまでは昔の話と語り草にならず、消滅したかのような議論もある。また、PFIやCMなど新しい不安材料もでてきた。PFIのデザインに対する評価の低さは価格競争に陥るし、CMへの期待はやはり倫理観の徹底にある。
この際情報公開をはじめ、市民オンブズマン制度のようなものを真剣に考える時期にきているのかもしれない。建築家自身が自ら変革できないのでは、あまりにも情けないのだが。